EAP(従業員援助プログラム)について
EAPについて話していきたい。EAPは 、「従業員援助プログラム」と呼ばれる。「仕事上の業績に影響を与える社員・職員の個人的問題を見つけて解決する」ための各種の援助、および「職場組織が生産性に関連する問題を提議する」ための援助を行うことが目的だ。
EAPはアメリカで発展してきたもので、問題を抱える従業員のいる企業等の生産性の維持のための援助活動ということに力点がある。
EAPには、企業内にEAPスタッフを配置して問題に取り組む「内部EAP」と企業外のEAP事業者に契約委託する「外部EAP」の2種類がある。
変則的な形態をもつEAPとして、複数の企業が共同出資して1つのEAPオフィスを社員のために作る「コンソーシアムEAP」といった試みもある。内部EAPよりも外部EAPを採用する企業が多い。
その理由は、外部EAPのほうが一般に安価でサービスの質も高いこと、外部EAPならば自分の問題を会社側に知られることなく気軽に相談できる点などがある。
EAPの利用方法としては、従業員が本人の意思で利用する「セルフ・リファー」と、上司などが部下などに利用を勧める「マネジメント・リファー」がある。
EAPはアメリカ生まれである。1940年代のアルコール依存症の更生プログラムから出発しており、こうした習癖者による、欠勤・事故・低生産性・代替要員への人件費などについて困っていた企業等が、このプログラムを散発的に採用するようになった。
ベトナム戦争の影響が色濃く残る中、レーガン政権下において1988年に成立した「薬物なき職場づくり法」も、企業等のEAP導入を拡大させた。この間、EAP事業者たちは団体を設立し、国際EAP学会(EAPA)ヘと発展させた。
EAPAはメンタルヘルス不全問題を含む広領域の従業員援助の概念を確立させ、1996年にはEAPの国際的ガイドラインの策定を行っている。
人種差別等の社会的格差の問題が少なく、永年雇用といった人事慣行や比較的に整った医療保険制度の中で、日本ではアメリカにおけるようなEAPニーズは必ずしも顕在化してこなかった。
しかし、1990年前後にバブル経済が崩壊し、各企業は生き残りをかけて「事業の再構築」を実施してきた。
その結果、労働者は、多くの失業や雇用不安、その一方での過重業務、さらには成果能力主義といった新しいマネジメント由来のストレスにさらされることとなった。
労働者は疲弊し、メンタルヘルスの状況は急激に悪化し、企業自身や国も対応を迫られるようになった。日本のEAPは短期間の中で起こってきたニーズということもあって、参入事業者は増えつつあるが、まだ量的にも質的にも乏しいのが現況である。